キャリア

【医師のキャリア/転職】病院の理念をどうとらえるべきか【訪問診療】

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

理念は「救急車を断らない」


徳田虎雄氏と出会ってから2か月ちょっとの、2002年4月1日に庄内余目病院の院長として赴任しました。

病院の詳しい状況はほとんど何も知らないで赴任しましたが、いざふたを開けてみると病院の状況は惨憺(さんたん)たるものでした。

300床規模の病院で、実働している常勤医師はたったの5人。

病気療養していた副院長が何とか復帰してきたのは5月の連休が過ぎてからという厳しさでした。

通常なら、こんな状況で救急車を受け入れることは考えられません。

でも、徳洲会の普遍的な理念の中でも「救急車は断らない」は中心的なものであり、全職員が救急車を受け入れることに何の疑いもなく、全力投球しているのでした。

当時は救急当番というものはなく、通常の外来診療の合間を縫って救急車に対応していたので、外来患者さんが長時間待たされることもしばしば起こりました。でも、不思議と不平の声は聞こえてきませんでした。

わたしの余目での最初の当直の時、まず運ばれてきた患者さんのことはまだ覚えています。60歳ぐらいだったと思いますが、首をつって自殺を図り、心肺停止状態で運ばれた方でした。

わたし自身は心肺蘇生など、10年くらい行っていなかったので、かなり戸惑いました。

職種問わず、全職員で一丸に


でもその時驚いたのですが、救急車が入るとわかったら、当直している看護師はもちろん、当直している放射線技師、検査技師も、救急車が到着する前から、救急対応室に待機しているのです。

そして、実際に患者さんが到着すると、蘇生処置を手伝いながら、胸のレントゲン撮影をしたり、心電図をとったり、採血された血液の検査に走ったりと、縦横無尽に活躍するのです。

それまで勤務していた大学病院では、たとえ救急外来に救急車で運ばれてきた患者さんでも、胸のレントゲン写真を撮影する必要があるときなどは、医師が患者さんをストレッチャーに乗せてレントゲン室に運び、放射線技師に頼み込んで、やっと撮影できるといった状況だったので、その違いに驚き、感心しました。

そして、病院全体の雰囲気が、「救急車はどうぞ来てください。一生懸命対応しますよ」というものなのです。

大学病院では、「え、救急車が来るの?大変だなあ。いやだなあ」という雰囲気がどうしても漂っていたので、大きな違いでした。

さすが理念として「救急は断らない。年中無休24時間オープン」を掲げている徳洲会グループだと感じました。

身をもって知る、理念が理念たる理由


わたしが庄内余目病院に就職して、間もないころ、外来をやっていると、腰の曲がったおばあちゃんが、袋に入ったものをわたしに差し出しました。

「これは何ですか?」と尋ねると、「岩海苔だよ。わたしがとったんだ」と。

徳洲会の理念に「患者様からの贈り物は一切受け取らない」というものがあり、それを知ってはいたのですが、自分で採った岩のりをくださる、その心がうれしくて、わたしは何のためらいもなくその袋を受け取りました。

そしてそれを診察机の引き出しにしまって、忘れてしまったのです。

しばらく経って、引き出しからそれを見つけた看護師さんが、「先生、ここに岩海苔が入っているけど、先生のもの?」と尋ねました。

はっと気づいたわたしに、その看護師さんが、岩海苔とは寒い日本海の岩場で、主に女性が足に冷たい海水を浴びながら採るもので、ここ庄内の冬の名物料理「寒鱈汁」の上に「ささっと」かけて食べるとその旨みが引き立つものだということ― きっとその患者さんが大変な思いをして採とったもので、想いが詰まっていること―。

などを教えてくれました。わたしはそのような説明を聞いて、やっとその岩海苔のありがたさに気づいて、とても申し訳ない思いにとらわれました。

大学時代からの変化


それと同時に、その岩海苔をいただいた時とは違った感情が湧き上がってきたのです。

それは、「もらうべきではなかった」という気持ちです。

筑波大学から庄内余目病院に移ったばかりのころは、患者さんからの贈り物に関して、ほとんど抵抗がありませんでした。

なぜなら大学では、時々受け取っていたからです。

患者さんからのお礼を受け取る“言い訳”として、大学の給料が、他の病院の同年代の医師よりかなり低かったこと。

そして、自宅の電話番号を患者さんに伝えていたことを考えていました。

当時は携帯電話などなかったですから、このようなサービスをすることが、患者さんの安心につながっていたことは確かです。

でも、余目に来て、もらわない習慣が半年も続いて、その岩海苔を見た時に、もらわなければよかったなと感じたのです。

それから10年以上、現在でも患者さんからの贈り物をいただくことはありませんが、とてもすっきりした気持ちです。

徳洲会に入った当時は、少し違和感のあった「患者さんからの贈り物は一切受け取らない」という理念は、思っていた以上に大事なものだと、感じています。

そして、このような理念は、職員全員で共有して、実践していくことがとても大事だと強く思います。

「病院の理念をどのようにとらえるべきでしょうか?」への私的結論


組織の理念を確立し、それを職員全体で共有し、実践していくことが、その組織のパワーとなります。

理念を建前としてしまうと、力は出ません。リーダー自身の実践する姿が、理念の確立に結びつきます。

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この記事を書いた人 野末 睦
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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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