経鼻胃管の長期留置はつらい

院長ブログ

芳賀 紀裕
あい太田クリニック 院長
芳賀 紀裕

 

自己抜去してしまいやすい経鼻胃管

病院から、自宅や施設に戻ってくる際に、食事が食べられない患者さんが経鼻胃管を入れてくる場合があります。
経鼻胃管とは鼻から胃の中まで管を入れて、そこから栄養剤を入れるためのもので、経管栄養(点滴ではなく胃や腸に栄養を入れること)の一つの方法です。
この方法は、鼻から管を入れるので、本人にとって大変不快なものです。
留置した姿を見るだけでもつらそうです。
そのため胃管を患者さん自身で引き抜いてしまう場合が多々あります。
胃管を挿入する際には、クリニックの方針として、きちんと胃に入っていることを確認するために、挿入後レントゲン撮影を必ず行っています。
そのため、再挿入の際には往診が必要となります。
また、抜去の頻度が高くなると、抑制と言って手袋のようなもので手を固定するなどの対策を考えなければならなくなります。
病院では医師が必要と判断すればご家族の許可を取り、抑制することができますが、介護施設の現場ではなかなか許されません。
そうかといって24時間 誰かが見ているわけにもいかず、施設の方も大変苦労することになります。
また、そのことで、患者さん本人が動くことが制限されて、体力の低下につながります。
また、のどに管が入っているので、口からご飯を食べる練習をする際には邪魔になるといった不利益もあります。
そのため、経鼻胃管による経腸栄養は長期にわたる場合には、あまり勧められる方法ではありません。

 

胃ろうに対する理解も必要

在宅医の立場からは、食べることが見込めない場合は経管栄養のもう一つの方法「胃ろう」にしてもらいたいのが本音です。
これは、ご存じの方も多いと思いますが、お腹から胃に穴を開けて専用のチューブを入れる方法です。
外科的処置なので、リスクは伴いますが、今は内視鏡を使用して造るので、体への負担は比較的少なくできます(最終的には病院での判断となります)。
また、経腸栄養を経鼻胃管から「胃ろう」に変えるメリットは大きいと思われます。

しかし、なんと言っても簡便なのは経鼻胃管であり、病院で選ばれている場合も多いのだと思います。

コロナ禍で家族に「胃ろう」について、患者さんの家族に十分に説明できる時間が持てないといった理由もあるのかもしれません。
また、以前に「胃ろう」が世間でも大分話題になってことがあります。
そのときにマスコミを含めて延命のための良くないものだという風潮があったので、患者さんやその家族のなかにも「胃ろう」に抵抗を感じている人も多いのかもしれません。

 

急性期の病院はとりあえず、主たる病気の治療が終わればなるべく早く退院の方向を考えます。
これは現在の医療システムの中では仕方のないことです。
本来は今後食べられるようになるか評価したり、食事ができるようにリハビリをしたりして、自宅や施設に戻ってくるのが理想ですが、なかなかそうはいかないのが現状です。
食事が食べられない原因が老衰によるものであれば、回復の見込みは少なく、経腸栄養が逆に身体に負担をかける可能性もあります。
欧米では、食べものを受け付けない高齢者に、無理やり食べさせるのは「虐待」と考えられているそうです。
文化の違いもありますが、日本ではまだまだ、食べられなくなると点滴やその他の栄養補給の方法を望む場合が多いと思います。
当然、回復の見込みのある場合は、経管栄養は良い適応ですが、経鼻胃管で戻ってきた場合はリハビリも思うように進みません。

 

クリニックでは、以前ブログでも書いた嚥下内視鏡(過去記事:嚥下内視鏡のスペシャリストがやって来た!)で食べることができそうか評価して、口からの食事を試みて経鼻胃管を使用しないで済むことができるようになることもあります。
しかし、多くは長期になることが多く、その場合はご家族にお話をして、再度病院に「胃ろう」の造設をお願いすることもあります。

 

コロナ感染後の栄養補給についてもACPに取り入れる

新型コロナウイルスに感染すると、以前は肺炎を起こしてお亡くなりになる方もいましたが、オミクロン株になってからは、症状が良くなっても、食事ができなくなって弱っていく方が多くみられます。
こういった場合も栄養補給をどうしていくか非常に悩ましい問題となってきます。
今後の見通しや医療について、患者さんおよび家族と医師らが話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考え方が重要視されていますが、なかなか在宅医療の場だけで済ますことができない場合が多くあります。
このあたりも、もっと地域の病院と連携を構築してゆければ良いと考えています。

 

 

 

 

 

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