先日、私たちの訪問診療に興味をお持ちくださった医師の中野寛也先生が、見学にいらしてくださいました。(写真左より 川合医師/中野医師/芳賀です)
医師でありながら現在は筑波大学の大学院生でもあり、将来は「データがわかる医師になりたい」という信念のもと、疫学をベースに医療・介護サービスの質やアクセスを評価するヘルスサービスリサーチの研究室で、転倒に関連する薬剤や訪問薬剤の研究などに日夜励まれています。
医師としては11年目のキャリアをお持ちで、その中でも3年半ほど訪問診療にも従事されていたご経験があるそうです。
今回は、川合医師の訪問診療に同行していただき、あい太田クリニックの訪問診療について、印象やご感想をいただきました。
医師・看護師・訪問診療アシスタントで1チーム|大型だからこそ診療に集中できる環境
質問1:あい太田クリニックの大規模な訪問診療をご見学いただき、いかがでしたか?今までお勤めになられてきた訪問診療との特徴の違いなどもあったら教えてください。
中野Dr:そうですね。医師に看護師と事務職員が同行する基本的なスタイルというのは、多くの訪問診療でもあると思うのですけれど、私が従事したところは小規模だったので、しばしば事務職員が同行できない時もあったんですね。事務職員がいなければ医師が運転するし、事務作業が必要がなかったらその場では特に何もしないで…ということもよくありました。
その点、あい太田クリニックさんは、全ての医師に必ず看護師と事務職員が同行してくれて訪問診療ができるというのは非常にありがたい仕組みであるなと思うのですが、それは大規模であることがかなり大きな強みだと思います。
事務職員の方がその場で処方箋の印刷をされているのも拝見しましたが、私の経験上では、印刷したものを持って行って手書きするといった感じでしたし、運転も医師が行うこともありましたので、その業務をやらなくて済むのは、診療に集中できて非常に良いなと思いました。
電子カルテやチャットツールを院外でもフル活用できる利便性の高さ
質問2:あい友会の全拠点では、モバカルネットという電子カルテをiphoneやタブレット、PCに入れて持ち歩いているのですけれど、中野先生は今まで訪問診療で電子カルテはどのようなものを使っていましたか?
中野Dr:まずセキュリティーの問題で実現しがたいようだったのですが、インターネットには物理的に接続していなくて。なので手持ちのスマートフォンからアクセスすることができないような状態だったんですよね。こちらでは、端末を持ち出して院外からもアクセスできる…というシステムそれ自体が大変便利だと感じました。
あとはやはりタブレットでカルテ操作ができる気軽さというのは間違いなくありますね。
前職のところは電子カルテの端末を持ち出すこと自体は可能だったのですけれど、こちらは、インターネットにつながっているわけで、自由度が一段階高くてすごくいいですね。
事業所間の関係性がベースにあってこそ電子ツールの利用は円滑になる
質問3:私たちの場合、ケアマネジャーさん、訪問看護師さん、介護施設、調剤薬局との電話のやり取りですと聞き間違いなども発生しかねないですし、かといってFAXで情報をお送りいただくのにも膨大な紙を消費します。もちろん緊急時はその限りではないですが、なんとか時間と資源のロスを減らすために、外部の連携先の方々とはChatworkというチャットツールをメインに使っていただくことを推進しています。中野先生の知る限り、他所ではどのようなツールを用いて地域連携していますか?
中野Dr:つくばのほうですと外部の方々とのやり取りは、MCS(メディカルケアステーション)を使ってるところが多い印象ですね。おそらく、先発だからというのと、セキュリティーがちゃんとしているというところで選ばれていたように思います。
コミュニケーションツールは、非常に便利だなと思う反面、緊急度が高いとか、文字だと説明しきれないとかで、電話で知っておいた方がいい情報が送られてきた時に、必ずしもすぐ見る、見られるわけでもないので、逆にうまくいかないリスクもあるかなと思います。
それは相手側とこちらの関係性などもありますよね。医師に直接電話するのを遠慮してしまうこともあるでしょうし。緊急度や評価が不十分なために、そうなることもあるでしょうし。
便利なのは間違いないと思っていて、円滑になる部分もあることは確かだと思っています。
ただ結局のところ、事業所間の関係性がベースにあってこそだな…と、強く思います。
在宅こそ重要視すべき褥瘡治療
質問4:川合医師は患者さんやご家族、連携各所の方々にもとても丁寧に対応されるので、各所からの信頼も厚い医師です。また在宅における褥瘡治療の権威でもあります。
褥瘡の治療も訪問診療、在宅医療の分野にフェーズが移ってきていますよね。ちょうど先日も、日本褥瘡学会学術集会で在宅での症例発表もされてきたばかりです。
今日は褥瘡を持ってる方の診察もご見学いただけましたか?
中野Dr:はい。褥瘡治療中の方が何人かいらっしゃいました。川合先生はまさにその通りです。病院より在宅の方がはるかに褥瘡が発生しやすいので、予防も大事ですし、治療も非常に大事です。ここは本当に比重の高いところで、あまり私が何か言うのも失礼かと思いますけど、非常にきっちり診ていらっしゃって、素晴らしいと思いました。
多様なフィールド、多様な患者さんをみられる訪問診療の魅力|多職種とのコミュニケーションの大切さ
質問5:あい太田クリニックの訪問診療をご覧いただきまして、訪問診療医を本格的にやってみようかな…という気持ちは湧きましたか。
中野Dr:やっぱり良いものだなとは思いますね。多様なフィールドがあって、多様な方がいて。ご自宅にお伺いして診療していくっていうのは、やっぱりいいものだなと。
今日は川合先生のチームを見学させていただきましたが、ケアマネジャーさんや訪問看護師さんが合わせて来てくれて、そして先生が主導でマネジメントなされているのだなと思いました。
顔を合わせてコミュニケーションをとるということ、それ自体が非常に大事で、そうしないと、こちらの本当にやってほしいことですとか、逆に相手が本当に困っていることって、実際に顔を合わせないと伝わらないですよね。少なからずそういうことがあって、むしろそちらの方がはるかに大事で。コミュニケーションツールなどは、そういう関係性の上に来ます…というのが多分良いのだろうと思ます。
質問6:確かにそうですね。実際にやってコミュニケーションをとって関係性を築かないといけないですね。
中野Dr:はい。両方大事で両輪みたいな。そういった連携などを本当に大事にされているのかなというのは拝見していて思いました。
介護者と医療従事者、「一緒に成長していこう」という気持ちが大切
質問7:介護施設の診療も、ご覧いただいていかがでしたか?場所によっては、決められた時間内にスピーディーに沢山の方の診察をしなければならない時もあるのですが。
中野Dr:今日初めておうかがいし拝見しただけでは何とも言えないのですけれども、普段どれくらいちゃんと施設スタッフさんが入居者の方々を見ていらっしゃるかというのがすごく大事だと思いますね。今日の川合先生と施設の方とのやり取りを拝見している中で、施設の方、ちゃんと見ていらっしゃるんだろうな、ということを思いながら拝見していました。
質問8:介護従事者と医療従事者、関係性や信頼感が大事ですよね。
中野Dr:そうですね。「一緒に成長していきましょう。」そういったモチベーションって双方にとって非常に大事なことだと思います。そして自分たちから見て、こうして欲しいと思うことがあるのであれば、それはやはり適宜お互い伝え合っていくものだと思います。適切な表現ではないかもしれませんが、相手を選んでいられないと思うのです。様々な理由や事情から在宅全体の需要も高まっています。これはよくないからこうしましょうとか、何がいけないからそれはやらないでおきましょうとか、そういう話をして、施設さん側の都合や事情などもあるでしょうから、こういうところに気をつけてほしいんだけど何ができそうですか?と話し合い、落としどころを探りながらも診療の質の向上自体、あるいはケアの質の向上自体は諦めてはいけない部分ではありますよね。
お看取りへの理解|看取り可能施設を増やしていくことが、ご本人、施設スタッフの負担軽減、限りある社会資源の節約につながる
質問9:介護施設もどんどん増えて、在宅療養支援診療所も増えてきていますが、お看取りは行えないという施設も少なくありません。お看取り体制が整っていないから救急搬送…といった対応をせざるを得ないわけです。私たちは救急車と救急外来の負担を減らすためにも、また救急搬送時の施設スタッフの負担を軽減するためにも、死亡確認のためだけに病院に運ぶことはせず、施設でお看取りをする、そうするには何をすればいいのか?という講義を、理事長や各クリニックの院長が行うこともあります。根気強く話し合いもして、ご理解いただいて、お看取りまでしていただける施設を増やしていくこと自体も非常に大事だなと思います。
中野Dr:施設の中で、最期まで医療の対応ができるというのは本当に重要なことだと思います。それをクリニック側から働きかけて施設さんに学んでいただく機会があることも、時間がないなどで難しいこともあるだけに、とても素晴らしいことだと思います。
首都圏の都市近郊での訪問診療、距離のデメリットをどう克服するか
質問10:話は変わりますが、訪問車中では雑談などはできましたか?次の地点まで行くのに時間がかかる場合は、車内で雑談に花が咲くことも多いのですが。
中野Dr:はい、楽しく過ごさせていただきました。太田市はSUBARUのお膝元ですね、と話しましたら、それだけ知っていれば大丈夫!といった楽しいやり取りもありました(笑)。産業地域や住宅の多い地域がボンとあったら、その周りには農村のような地域もあって。診療範囲の半径16kmの中には本当にいろいろなケースがありそうですよね。つくばや牛久、龍ケ崎などでも同じです。訪問診療を行うということ自体が、16km圏内にいろいろな人を抱え込んでいるというのは、少なくとも首都圏の近郊であればどこでも同じなんだなと。それは非常に興味深いなと思いましたし、多様な背景の人を診ることで在宅医としてのスキルアップにつながるのではないかと思います。
また距離のデメリットなどもありますね。施設1軒行ったあと、居宅3軒しか行けないですとか、物理的な要素も課題にはなってきますね。
これまでも沢山の医師が見学に来てくださいましたが、今回中野先生に許可を得て、いただいたご感想を初めてブログで発信させていただきました。
普段自分たちが当たり前のように行っていることについて、外部の方からの改めてご感想やご意見をいただくと、新しい発見があったり、改善点が見えてきたり、同じ志があることに共感できたり、また、自分たちが行っていることに誇りを持てたりと、とても素晴らしい機会をいただくことができました。
中野先生、貴重なお時間とお話を頂戴し、心より感謝いたします。
いつか一緒に働ける時が訪れることを夢見ています。
このブログをご覧いただき、私たちの訪問診療に興味をお持ち下さったら、ぜひお気軽にご連絡ください!