緩和ケアについて-その4 |医療用麻薬の投与

院長ブログ

芳賀 紀裕
あい太田クリニック 院長
芳賀 紀裕

 

 

新型コロナ感染症の「第7波」が急拡大している中、われわれ訪問診療専門のクリニックでも多くの抗原検査、PCR検査を施行しています。陽性となる患者さんも多数おり、入院せず(できず)在宅のままで診療している方もおられ日々対応に追われています。
しかしそんな中でも、癌を患って最後は自宅で過ごしたいと、退院されてくる患者さんも多くいます。

そして、その場合は緩和ケアが中心になります。

 

 

苦痛を取り除いてくれる医療用麻薬

緩和ケアで大事な医療のひとつは、身体的苦痛の緩和です。

その方にとって、痛みや呼吸苦などの辛い症状をなるべく取り、少しでも笑顔で生活を送れることが大切です。

そのキーとなる薬がモルヒネに代表される医療用麻薬です。

麻薬という言葉から、中毒になってしまうのではないか?使用すると死期が早まるのではないか?などの悪いイメージを持っていて、使用することに抵抗感を持つ患者さんやご家族が少なからずいらっしゃいます。

その抵抗感を取ってあげることも重要な部分だと、いつも緩和ケアチーム内で話し合っています。

医療用麻薬は安全に使用でき、きちんと使えば、副作用を最小限にしながら苦痛を取り除くことができますし、モルヒネ以外にも副作用を軽減した新しい薬もあります。

モルヒネは、通常1日量として10~20mg程度から開始することが多いですが、その100倍以上を使用しても、意識ははっきりしていて、痛みもあまり感じることなく生活している方もいらっしゃいます。

 

 

飲み薬、貼付剤、持続注射など様々な方法

症状が進んで、薬が飲めなくなっても、テープ(貼付剤)を貼るといった形の薬もありますし、在宅でも医療用麻薬の持続注射は問題なく使用できます。

また、点滴する血管がなくても、持続皮下注という簡便な方法で行えます。

持続注射に用いる機械型のポンプをレンタルできる業者もありますし、注射液は訪問調剤薬局が充填してくれます。

注射を用いることで、かなりの苦痛を抑えることが可能になります。

特に痛みが増したときには患者さん自身、もしくはご家族が注射を早送りするボタンを押すことで対応できます。

このように持続注射は大変有効な緩和医療の手段ですが、太田市近郊では対応してくれる薬局がまだまだ少なく、今後の課題です。

 

 

家族が抱く使用決断時の葛藤、使用開始後の葛藤

かなり状態が悪くなってくると、癌患者さんを介護するご家族には、医療用麻薬を使用開始するときとはまた別の葛藤があります。

痛みや辛さも取れ、意識もはっきりしていて元気…という状態が、患者さんにとってもご家族にとっても一番いいことです。

しかし、辛くないことを一番に考えるか、それとも最期まで意識がある状態を一番に考えるかで、厳しい選択をしなければならない時もあります。

多くのご家族は、寝てしまう時間が増えてもいいから楽になれるようにと、レスキュー(定時鎮痛薬の不足を補うため追加投与する鎮痛薬)を使うことに理解を示します。
しかし、会話ができなくなってしまうのを敬遠し、我慢してしまう方も中にはいらっしゃいます。

ご本人がレスキューを使わないとおっしゃる場合は仕方がないですが、ご家族が使わないとおっしゃる場合は、ご本人が辛いことになります。

ご本人に意思の確認をすることが難しい時は、「痛がった時はどうしますか?」と、ご家族に意思を確認しなければなりません。

例えば、在宅医療だけではなく病院でも起こりうることですが、レスキューを使ったその後に亡くなられた…という場合、それを使ったから亡くなってしまったのだと思われ、後悔の念を引きずってしまうご家族もいらっしゃるようです。

ですがそれは、最期がたまたまその時であっただけで、レスキューが原因ではないということを、説明しています。

残されたご家族に対する心のケアも、緩和医療の一環だと考えており、緩和ケアチームとしても取り組んでいるところです。

患者さんご本人にとっても、ご家族にとっても、なるべく悔いのない最期を迎えていただくために、医療用麻薬への理解を深めていただきたいと思っています。少しでも不安な部分があったら、遠慮をせず、ご相談いただきたいと思います。

 

 

 

 

 

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